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» 2007年10月01日 00時00分 公開

携帯電話機向けSERDESの設計 (1/5)

われわれFairchild Semiconductor社の設計チームは、ノート型パソコン用のSERDESを設計した経験を基に、携帯電話機向けSERDESの開発を行った。そのプロジェクトを通して、システムに最適なチップを開発するためのアプローチに関する貴重な知識を得ることができた。本稿では、その概要を紹介したい。

[Michael Fowler(米Fairchild Semiconductor社),EDN]

未経験分野へのチャレンジ

 携帯電話機がより薄く、より高機能になるに連れ、システム設計におけるよく知られた課題が一層顕在化してきた。消費電力低減の問題と、機器内でのデータの移動に伴うノイズに関する問題である。これらを解決するには、チップ設計者がシステムレベルの設計の問題に対処しなければならない。われわれが、携帯電話機向けのSERDES(serializer/deserializer)を開発にするに当たって最初に行ったことは、システムに関する詳細な調査や、複数の顧客との徹底的な議論であった。

 現在、Fairchild Semiconductor社が「μSerDes(micro SERDES)」と呼ぶ製品群は、それまでノート型パソコン向けに開発していたものとは大きく異なる設計要求に応えるものとなった。ノート型パソコンと携帯電話機とでは、以下のような違いがあり、われわれにとっては初めて遭遇する問題が含まれていた。

  • マイクロコントローラインターフェースをシリアル化しなければならない
  • 消費電力が最重要設計課題である
  • 信号の流れに双方向性が必要とされる
  • 無線通信が重要な部分である
表1 ESDに関する要件の違い 表1 ESDに関する要件の違い 

 携帯電話機の市場における要求や認識は、ほかの分野のそれとは大きく異なる。例えば、われわれコンピュータ機器向けの半導体サプライヤは、ESD(electrostatic discharge)によってチップが破壊してしまうことを問題にするが、携帯電話機のメーカーはESDによって液晶ディスプレイ(LCD)が一時的に停止してしまうことを問題にする。このESDという問題に関していえば、表1に示すような相違点があることが分かった。それ以外にも、これまでになかった技術的問題や、サプライヤとユーザー間の用語/見解の違いに何度も驚かされることになった。

ビジネスチャンスの認識

 事の始まりは2001年の行われたある顧客の展示会で、ある携帯電話機メーカーの製品エンジニアとわれわれFairchild社のエンジニアが、フリッパ型/クラムシェル型といった携帯電話機のデザインについて議論し始めたことである。それまでノート型パソコン向けのSERDESの開発に携わっていた当社エンジニアは、その分野に興味を抱いた。

 2つの分野は、多くの部分で共通点を持っていた。例えば、ディスプレイがプロセッサとは異なる位置にあるといった具合だ。両者の間を高速な信号線で結ぶと、EMI(electromagnetic interference)の問題が発生するが、コンピュータの分野では、SERDES技術により、製品がFCC(米連邦通信委員会)の要件をはじめとする政府のEMIテストに合格できるようになった。こうした経験から、われわれは、SERDESの手法がノート型パソコンの場合と同様に携帯電話機アプリケーションでも利用できると考えた。

 後になって、携帯電話機においてはノート型パソコンの場合よりもEMIの問題ははるかに大きなものであることが分かった。さらに、チップを選択する段階になって、EMIよりももっと重大な問題が2つ存在することが分かった。それは、感度と配線数の問題である。

ユーザーからの情報収集

 われわれは携帯電話機向けのSERDESの実現に向けてさらに考察を進めるに連れ、主要な携帯電話機メーカーの設計エンジニアの意見を積極的に得ることが、成功に不可欠であることに気が付いた。そこで設計チームは、世界中を飛び回り、いくつもの大手携帯電話機メーカーとアプリケーションの要件について議論した。その結果、コンピュータ分野向けのSERDESを携帯電話機向けとするには、いくつかの抜本的な変更が必要であることが分かった。

 顧客らとの最初の議論から、システムは常に同期しているとは限らず、データをロード/転送するための自走式クロックが存在しない場合があることを知った。設計上考察すべき重要な項目は、マイクロコントローラのデータパスをシリアル化するために必要な双方向のデータパスであり、データと同期するクロックが存在しないかもしれないという点である。さらに、読み出し(read)と書き込み(write)を同一サイクルで実行できれば都合が良いことも分かった。

 こうした事実は設計初期に生じた驚きの1つだったが、問題はそれだけでは終わらなかった。タイミングに関しては、パラレル入力インターフェースをシリアルインターフェースから切り離す必要があった。データは都合良く定期的なクロック間隔で送られてくるわけではない。データはマイクロコントローラが“送りたくなったとき”に送信されるのだ。読み出し処理では、データは一方向だが、制御信号は逆方向にも伝送する必要があった。これらの要件は、いずれも標準的なSERDESの能力をはるかに超えていた。

 ギガビットイーサー対応のSERDESなど、ハイエンドの製品にはそのような機能を備えるものもある。しかし、そうした製品は携帯電話機アプリケーション向けには高価すぎるし、ほかのすべての要件を満たしているわけでもなかった。高々10cm程度の距離のディスプレイに情報を転送するために、ヘッダー情報や誤り検出/訂正を含む複雑なデータをパケット化するのは明らかに過剰な処理である。必要なのは、データを双方向に転送し、受信データをラッチするための非同期信号を使用することが可能な基本的なSERDESであった。

 これもまた驚きの1つだったのだが、重要な事実がこのとき明らかになった。コンピュータ機器向けのSERDES設計においても、FCCの規定について考慮する必要はあったのだが、携帯電話機の場合、EMIの問題はさらに深刻である。コンピュータ機器のアプリケーションでは、放射レベルが−60dBm未満ならば、システムはほかのシステムに干渉しないことを保証することができた。しかし、携帯電話機は無線通信機器であるため、そのレベルのEMIには耐えられない。携帯電話機向けSERDESでは、わずか6mm先のアンテナからの無線送受信に干渉してはならないのである。そのため、目標値は従来の−60dBmを大きく上回る−120dBmとなった。

 もう1つの厳しい要件は、消費電力であった。一般的なSERDESの消費電力はこの要件とは数桁もかけ離れていた。携帯電話機の設計においては、電池の寿命が最も重要な要素の1つである。通話時には1mAの電流が問題となり、待機時には1μAの電流が問題となる。

 SERDESの実装を細かく分析した結果、SERDESペアの消費電力に関して3つの主要な要素があることが明らかになった。チップのロジック回路とシリアルリンクはどちらも、PLLと同様に大きな電流を消費する。携帯電話機のアプリケーションでは放射が小さく帯域幅が広いことから、設計チームは差動伝送を用いることにした。この時点では、エンジニアらはこの決断の重大さに気が付いていなかった。消費電力を最大限に削減するには、PLLについてさらに調査する必要があった。その結果、動作電流もスタンバイ電流も許容できるものではなかった。特にスタンバイ電流は、許容レベルから3桁もかけ離れていたのだ。

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